ヴィンテージ スタインウェイのおはなし:④   by 坂上麻紀

今回から⑥までの3回は鉄骨のバーについてのおはなしです。まず,スタインウェイの鉄骨各部の名称を紹介させて頂きます。

モデルはBです(B-211といった長さの数値を添えるのはハンブルクの流儀で,ニューヨーク・スタインウェイなら単にBと表示します)。この図にはプレート・ホールの名前が抜けていますが,これについてはおわかりですね?

複数のバーが鉄骨を支えています。そして,ピアノの鳴り,ピアノの振動しやすさ,鉄骨の振動しやすさを左右するのはウェブ(プレート)ではなく,これらのバーなのです。スタインウェイの鳴りの鑑定法にリムへのノックと並んで,あるいはそれ以上に常用されるやり方はクロスバー,またはセンターバーを握りこぶしの小指側で軽く叩くことです。バスバーには大屋根を外さない限り,手が届きません。

この時,鳴りの悪い個体はゴンと音を発するだけ。これに対して,鳴りのよい個体はボ~~ンと重低音を発して長い響きを聞かせてくれます。

もちろん,その際には弦も響板も振動しているのですが,それらを十分に振動させているのは軽打されたバーで,鉄骨なのです。

なぜ,自らそのように振動し,他を振動させるのでしょうか? その秘密はバーのごく微妙な曲りやねじれにあります。

次の写真は後方から撮ったセンターバーの写真ですが,その湾曲の様子がわかりますよね。ほんの少しねじれているようにも見えます。

もう少し視点を下げると一層,その湾曲が誇張されてよくわかるでしょう。ヴィンテージ スタインウェイのバーは一見,まっすぐなようですがそうではなく,微妙に湾曲したりねじれたりしているのです。そして,その状況には個体差があります。皆,同じように変形しているのではないのです。

まっすぐに見えるニュー・スタインウェイのバーはこのような角度から見てもまっすぐです。それは,詳しいことは別のところで述べていますが,鋳造方法,鋳造技術が違うからです。

機械部品のモト(粗形材と言います)をきっちり作るなら,新しい鋳造法の方が優れています。

しかし,ピアノの鉄骨は微妙に曲がったりねじれたりしている方が弾性があって振動しやすく,そのことがまたピアノをよく響かせてくれるのです。

正確,剛直なバーはピアノの振動,つまりその鳴りを弱くするだけでなく,実はアタックノイズを激しくしてしまうのです。