ヴィンテージ スタインウェイのおはなし:⑥   by 坂上麻紀

続いてバー・シリーズの最後にバス・バーを観察してみましょう。演奏者側からこれを撮影しようとするとリムの内側面が邪魔をしてバーの軸からやや外れたアングルしか設定できないのですが,短めのピッチで蛇行しているような様子が見られます。

下の写真のように奥からのぞくとバーの軸に一致した視線で撮影することができます。

このアングルから見ると,蛇行がバス・バーの前半部で起こっていること,ノーズボルト・ナットに近いところでは僅かなねじれがあるような印象が見受けられます。

このようなバー群のひずみはその長手方向の剛直さを和らげます。過剰なアタック・エネルギー,アタックの際,弦に働く張力のスパイクはバー,鉄骨,そしてそれを取りまくリムがその変形を通じて吸収してくれることになります。

いったん吸収されたアタック・エネルギーはすぐに放出されますが,この放出は弦,特に低音弦の低次部分振動,つまり低次部分音という形を取ります。ひずみには個体差がありますから,低次部分音の生成にも当然,個体差が現れます。

“アタック・エネルギーを低音弦の低次部分音に”という変換,これこそは私たちが発見したヴィンテージ・スタインウェイ,フルコンの基本的特性です。

だからこそ,No.104611の低音部は一音を軽く打鍵した時にさえ地響きのような深い迫力のある重低音を出せるのです。