赤や黄色の色様々に…………………………運転中における発動機各部温度測定のおはなし

季節はとうに過ぎてしまったか,紅葉が赤や橙色,黄色,それも様々なグラデーションを持ったそれとして華やかに自己主張するのは日本のような温帯,それもある緯度の地域に限られるようで,欧米では紅葉と言えば単色が普通であるそうな。そう言えば,日本でも高原地帯や北方のカラマツ林の紅葉は黄色一色である。
もっとも,今回の主役は色とりどりではあっても紅葉ではなく温度分布測定用温度表示色素という名の誠に情緒稀薄な塗料である。
その嚆矢はドイツが世界に誇った化学会社I.G. Farbenによって1930年代に発明されたテルモカラーである。これを運転中,高温になる機械部品に塗布しておけば,その永久変色により運転中における各部の最高温度(40~650℃)を知ることができる 。
それはある温度である色へと変色する単変色型と次々にその色を変える複変色型とに大別され,それぞれに特性を異にする型番がラインナップされていた。複変色型は永久変色である点を除けばあたかも当今のサーモグラフィーのような機能を担っていた。図はこれを航空発動機の気筒(気筒頭と一体化)に適用した例である

航空発動機気筒の温度測定例

三繩秀松『試驗及測定用機器』改訂版 山海堂 1944年 242頁次 グラヴィア 第303圖。

Aの内,1~8は単変色型,20,30,31は複変色型である。予め各部の到達温度に見込みを付け,適切な番手のテルモカラーを塗り分けておくところがミソである。

次図は機体装備状態の発動機各部温度の測定状況を示す。機体は石川島飛行機(→立川飛行機)の95式三型練習機,発動機は東京瓦斯電気工業(→日立航空機)製の神風式三型である。

東京瓦斯電気工業(→日立航空機)製神風式三型発動機の各部温度測定状況

同上書 第303圖(K)。

また,次図は同上発動機各部温度測定の結果を拡大表示したものである。

同上発動機各部温度測定結果の拡大表示

同上書 第303圖(J) プロペラ回転後30分

摺動部分についてはテルモカラーをその裏側に塗布して温度測定が行われた。その国産類似品としてサーモカラーと称するモノが開発製造された。理化学研究所の稲葉見敬博士らの研究によるもので,適応最高温度は500℃程度であった。
なお,ヨリ高い温度の測定が必要とされる場合,部品に小さな空所を穿ち,その内部に様々な融点を持つ可融合金(fusible alloys)片を封入し,運転後に取出し,合金片のカドや全体の溶融状況を観察して最高到達温度を推定する面倒な手口が用いられた。可融合金は電気ヒューズと同類の低融点合金であり,段階的に様々な融点を持つものが揃えられていた 。
いずれもサーミスタや熱電対が十分,実用に堪えるようになる以前に発明された技術であるが,今でも可逆性,不可逆性の温度表示色素の方は塗るだけ,シールにして貼るだけで危険な温度上昇を教えてくれるため,産業界では広く用いられている。